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耽美主義者の酒、アブサンとは

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耽美主義者の酒、アブサンとは

ワームウッドと、アニスやフェンネルなどのハーブが奏でるグリーンのリキュール、アブサンにはロマンティックな何かが存在します。ゴッホやオスカー・ワイルドが愛飲し、ロートレックやピカソが描いたアブサン。アブサンは唯美主義者たちの飲み物であり、そのことがアブサンを初めて有名にした必要不可欠な要素でした。

 

また、1840年代のアルジェリア侵攻での、フランス兵士へ配給されたこともまたそのひとつです。解熱や、赤痢の予防目的で使用されていました。すぐに、兵士たちは、医療目的ではなくアブサンの魅力にとりつかれていき、アルジェリアのカフェやナイトクラブでは流行のドリンクとなったのです。兵士たちはフランスへ戻っても、アブサンの虜になっていました。その当時、フランスのワイン業界は、ぶどうにつくアブラムシが原因でワインの供給は不足し、崩壊しかけていました。まさに、アブサンは、いい場所で、いい時期に入ってきたものだったのです。しかし単にワインの代用品というわけでなく、フランス人は、アブサンを偉大な酒のうちのひとつにまで高めた『アブサンを飲む儀式』を発展させていきました。

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その儀式とは、はじめに、アブサンを冷水を加えます。これは、70度ほどある酒を薄めるという意味だけでなく、「ルーシュ」と呼ばれる白濁する効果を生み出します。ルーシュは、視覚的に印象的ですばらしい光景です。光の加減で、アブサンが深い緑色から乳白色に変化していくのです。それはグラスの中で起こるマジックといった感じです。ルーシュは、また、化学的にも興味深い現象で、それは「ウーゾ効果」と呼ばれています。基本的に、水がアブサンとまざると、アブサンの持つエッセンシャルオイル成分が、アルコールから水に溶け出して、自然発生的に乳化していきます。これがアブサンが白濁する原理で、この現象は長い時間持続します。

なにより、冷水がアブサンには不可欠と言われており、生ぬるいアブサンは、とても飲めたものではない、という19世紀の記述があるそうです。

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アブサンは、穴の空いたスプーンの上に置かれた角砂糖を置き、水を1滴1滴たらし(ドリップ)ながら、砂糖を溶かす儀式とよばれる方法で飲まれます。

なぜアブサン専用のスプーンが作られたのか?フォークでもアブサンの儀式は可能ですが、アブサン全盛期の1800年代、砂糖は今の角砂糖のような形ではなく、でこぼこしていたので、フォークではうまくバランスよく砂糖を乗せることができませんでした。というわけで、フランス人がアブサン専用のスプーンを発明したわけです。

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アブサンファウンテンが作られたのは、次の二つの理由からです。ひとつは、アブサンに注ぐ水を経済的に冷やせる、という点です。1800年代半ばには、まだ氷は高価で、高級なもので、多量の水を冷やすにはかなりお金のかかることでした。ふたつめには、白濁する効果を狙ったためです。もちろん、一気に水を注ぐこともできます。しかし、そこにマジックはあるのでしょうか?ーないのです。アブサンを飲むことは、感覚をくすぐる道楽であり、だからこそ芸術家たちが愛飲していたのです。

1900年代後半には、より多くの人に愛飲されたアブサンですが、その儀式とそれに使う器具はすぐに社交界の指標になりました。カフェには、穴のあいたシンプルなデザインのスプーンがあり、裕福な家では銀細工師に頼んで特別なスプーンを作ったようです。また、その頃登場した新素材のアルミニウム製のスプーンは、純銀製のそれよりも、高価だったといいます。

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芸術家たちの飲み物というアブサンの名声にもかかわらず、アブサンはまず、一般大衆の飲み物でした。芸術家たちがアブサンを楽しんだのは、人々が一緒になれるお酒であるからです。彼らは、アブサンを文化として楽しんだのです。

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