Trio Estrangeiros
トリオ・エストランジェイロス。訳すと「異邦人トリオ」。ふたりのブラジル人とひとりのニューヨーカー。ヴィニシウス・カントゥアリア、ダヂ、そし
てジェシー・ハリス。ふたりのブラジル人が知り合ったのは75年のことだそうだが、3人揃って親交を結ぶようになったのは2011年。さほど古い話ではな
い。
ジェシーはノラ・ジョーンズのブラジルツアーで、ダヂの知己を得、ダヂを介してヴィニシウスと友人となる。ほどなくジェシーは、自身のアルバム『サ
ブ・ローサ』をリオで録音し、ダヂ、ヴィニシウスの双方を制作に招き入れ、そのお返しとばかりにヴィニシウスは最新作『アパート暮らしのインヂオ』でジェ
シーと共作・共演を果たす。よほどウマがあったのだろう、急接近ともいうべき親密ぶりだ。
リオとニューヨーク。その往還のなかで育まれた友情の結晶として、この「トリオ・エストランジェイロス」は生まれた。ジェシーの『サブ・ローサ』、
ヴィニシウスの『アパート暮らしのインヂオ』は、ともに「異邦人」として異国で音楽をつくること自体をテーマとした作品ということができる。そこでふたり
はそれぞれのやり方で、異国の地で感じるよるべなさや郷愁を、さらには母国というもののしがらみや鬱陶しさから逃れた、いっそ諦念にも満ちた晴れがましさ
をも表現した。ふたつのアルバムは、なるほど、まるでリオとニューヨークを合わせ鏡にしたかのように響きあう。
ブラジル音楽好きならお察しの通り「エストランジェイロ」と言って真っ先に思い浮かぶのは、カエターノ・ヴェローゾの89年のアルバムだ。アート・
リンゼイ、ピーター・シェーラーをはじめとするニューヨークのミュージシャンたちとともに、カエターノは、摩天楼のエキセントリックな喧噪を異邦人の耳で
切り取った。さらに遡れば、ロンドンでの亡命時代に彼が残した作品を思い起こすこともできる。そこには悲哀、鬱屈に沈む「エストランジェイロ」の痛々しい
姿があった。理不尽な政治の力が暗い影となって彼を覆っていた。
比べれば、21世紀の「エストランジェイロ」たちは、おそらくもっと身軽だ。ブラジルとニューヨークの往還は、カエターノの「エストランジェイロ」
以降もっと緊密なものとなり、ミュージシャン同士の交流も活発だ。ノラ・ジョーンズがヴィニシウスのアルバムに、坂本龍一やビル・フリゼールと並んで参加
する。もっとカジュアルで、フレンドリーな交歓がそこにはある。「トリオ・エストランジェイロス」には、だから、かつてカエターノが生きなければならな
かった異国での苦しみや痛みはないかもしれない。今回の日本公演で彼らに何かカヴァー曲を披露してくれるようにお願いしたところ、真っ先に帰ってきたの
は、ジョルジュ・ベンの「Umbabarauma」だったそうだ。
それでもやっぱり、その音楽からは「サウダーヂ」が溢れてやまないはずだ。ジェシーとダヂが、その言葉に面白い定義を与えている。
「大事な人がそばにいてくれたらいいのに、と想う心」(ジェシー)
「誰かの存在は感じるのに、その人がいないとき」(ダヂ)
サウダーヂは「故郷」に対して抱くものではあるにせよ、それはもはや「国」や「地域」を意味しない。サウダーヂは「友」のなかに感じるものだ、と彼らは言う。友がいる場所。そここそが、エストランジェイロスにとってのただひとつの「故郷」なのだ。
ジェシー・ハリス(Vo, AG)- http://www.jesseharrismusic.com/
ヴィニシウス・カントゥアリア(Vo, AG, Drums)- http://www.vinicius.com
ダヂ (Vo, AG, EG, Bass)- http://www.dadi.com.br
cheers!!!...