ゴッホの手記の中のアブサン
ゴッホが弟のテオに宛てた手紙の中に、アブサンに関する記述がいくつかあります。未だ、ゴッホが耳を切り落としたのは、アブサンが原因である、と言われていますが、その真相は別としても、この中にゴッホのアブサンに対する考えがあわられていることは確かです。
Letter from Vincent van Gogh to Theo van Gogh ゴッホからテオへの手紙
Arles, 30 April 1889 1889年4月30日アルルにて
この点において、我々は社会に反対し、自分自信を守ることが許されているのだ。我々は、自殺に傾倒したマルセイユの芸術家が、アブサンの影響でそうなったのではないと確信できる。それは単純な理由からで、誰も彼にアブサンを差し出しはしなかったし、彼自身、アブサンを買えるお金もなかったのだ。それに、彼は好んでアブサンをストレートで飲みはしなかっただろうし、彼はその以前からすでに病気だったのだ。
Letter from Vincent van Gogh to Theo van Gogh ゴッホからテオへの手紙
Arles, c. 21 April 1888 1889年4月21日アルルにて
モンティセリがあんなにも大量のアブサンを飲んだという伝説の真実性を、だんだん疑うようになっている。モンティセリの作品を見ると、酔っ払いで無気力な男にあんな絵が描けるのが可能とは思えない。
Letter from Vincent van Gogh to Theo van Gogh ゴッホからテオへの手紙
Arles, 10 October 1888 1888年10月10日アルルにて
よくモンティセリのことを考える。彼の死について色々と言われていることをくよくよ思いを巡らしている。しかし、私には、モンティセリが飲酒に溺れて、酔っ払いとして死んでいったという考えを排除しなければいけないだけでなく、当然のこととして、一人の人間が開放的な空気の中で、カフェ文化の中で、彼なりの人生を生き、彼は多かれ少なかれ、生涯において大酒飲みであった、というように理解しなけれなならないのだ、と思える。
しかし、大酒飲みとは真逆の、彼に対する大いなる賞賛は当然のものだし、彼は聡明で、ガリバルディのごとく、あらゆる噂に反論していた。だから私は喜んで、アブサン大酒飲みモンティセリの伝説を、私の所に来る郵便局員と同じぐらいの酒飲みへと、少し酒量を減らして考えようと思う。
Letter from Vincent van Gogh to Theo van Gogh ゴッホからテオへの手紙
Arles, c. 21 April 1889 1889年4月21日アルルにて
私の病気の大いなる原因の一つは、疑いの余地なくアルコールであるかもしれないとあなたは思っている一方で、病はゆっくりとやってきたのだから、そしてもし消えるものであるのならば、ゆっくり消えてゆくのだろうと思う。
Letter from Vincent van Gogh to Wilhelmina van Gogh ゴッホからヴィレミーナ・ゴッホ(末妹)への手紙
Saint-Rémy, c. 20-22 October 1889 1889年10月20-22日サンレミーにて
ここの医者はパリへ行ってしまった。テオに会うためだ。医者はテオに、私は狂人などではなく、私にある危機というのは、てんかん性のものであると言った。だから、アルコールが私の病の原因ではないのだ。だからと言って、それが私に取って良い事だとは言えない事をわかってほしい。不運の疑念に落胆しすぎている間は、人は日常生活に戻る事はとても難しいのだ。そして、過去への愛着と執着から、不運は続くのだ。