アブサンとはニガヨモギを中心に作られた古くからある薬草酒の一種です。
数ある薬草酒の中でも特にユニークな味と香りを持つ、ストーリー豊かなお酒で、 アーティスト達との関わりが深い点、飲み方、酔い方も独特です。
アブサンとはニガヨモギを中心に作られた古くからある薬草酒の一種です。
数ある薬草酒の中でも特にユニークな味と香りを持つ、ストーリー豊かなお酒で、 アーティスト達との関わりが深い点、飲み方、酔い方も独特です。
二ガヨモギとアニスがおりなすフレーバーは強烈で個性的。何にたとえようもなく、好き嫌いのはっきりとわかれるお酒です。
特に19世紀末から20世紀初頭にかけて、ゴッホ、ピカソといった画家や、ランボーやボードレルなどの文学界、知識人のインスピレーションの源として賛美され愛されており、彼らの作品にもアブサンは多く登場します。
いろんな酒がありますが、禁止になったお酒というのは、他ではあまりみられません。
アブサンの飲み方のひとつに、アブサンドリップという特殊な道具を使った儀式めいた飲み方があります。アブサンは加水すると透明、もしくは薄い緑だった色が真っ白く変わります。この加水の儀式のためだけの道具があります。アブサンスプーン:小穴のたくさん空いたスプーンやアブサンファウンテンと呼ばれる給水器などです。
天然ハーブのお酒なので、薬草由来の独特な酔い方が体験できます。個人差はありますが、酩酊しているなかにも、何か頭の中がすっきりとするような、酔っていると同時に覚醒しているような感覚を覚えます。いろんないわくがありますが、実は幻覚が見えたり、耳を切り落としたくなったりするというようなことはありませんので心配はご無用です。
スイスとフランスの国境近く、ジュラ山脈のふもと、ヴァルドトラヴェール地方がアブサン発祥の地とされています。現地で薬酒として作られていたヨモギ酒が、アブサンの原型です。いち早く商品化し販売していたアンリオ姉妹がそのレシピを売却したのがデュビエ公爵というレース商人。彼の会社でアブサンを商品化し、地元でひろく流通させたのが、後に初代のペルノ社の代表となるアンリ・ルイ・ペルノ氏。関税の関係から国境をまたいだフランス側のポンタリエの地に工場をつくり、後に独立してペルノ社を設立。19世紀の初頭、フランスのアルジェリア侵攻の際、消化不良やマラリア予防のため軍が兵士に支給される。戦後、兵士たちが国にアブサンを飲む習慣を持ち帰り、地方の地酒であったアブサンは、だんだんとフランス中に広まっていきます。
1870年頃に始まるフィロキセラ害によるブドウの不作により、ワインの生産量が半減し、10年以上にわたり生産が不可能になる事態がおきたことも、アブサンの消費増大に拍車をかけることになりました。
庶民、ワーキングクラスから比較的リッチな人々まで幅広く国民的愛飲酒となります。 その人気はアメリカまでも飛び火しました。 グリーンアワー(緑の時間)と言われる仕事の後のアブサンを飲むひと時が 楽しまれ、 アーティストにインスピレーションを与える霊酒としてあがめられました。 アブサンは売れまくり、ペルノ社はフランスでも大企業となります。
消費量の低迷していたワイン、ビール業界の圧力により、アブサンは、危険で悪い飲み物であり、社会にとって害悪であるというロビー活動やプロパガンダが起きました。 禁止の口実はツヨンというニガヨモギの成分が幻覚症状を引き起こし、錯乱や狂気を引き起こす麻薬のような成分であるからとのこと 。 アメリカでは禁酒法の制定が持ち上がる時期にあたり、ヨーロッパでもアルコール自体を禁止しようという運動が始まりました。 アブサンはそのスケープゴートとして1905年から1915年にかけて、ヨーロッパ各国で、製造と販売は全面的に禁止されてしまいます。
80年代に入り、WHOがツヨンの危険度についてあらためて検証し、さほど危険なものではないという発表をします。80年代後半、ヨーロッパ諸国がこの報告を採用し、ニガヨモギを一定程度使った食品、飲料の製造、販売を認可します。実際にアブサンが再び生産されはじめるのは主に2000年代に入ってからになります。各国の法律でアブサンの解禁が明文化され、合法的にアブサンが製造できる環境が整うと、クラフトビールのブームの後、小規模な酒造メーカーにアブサン造りが注目されます。個人的には後々起こるのクラフトスピリッツやクラフトジン のブームの下地を作ったのはアブサンではないかと考えています。現代では日本を含め世界中でアブサンが製造され、その銘柄は400から500種類ともいわれています。
アブサンドリップとは、アブサンを水で割って飲む、伝統的な儀式のこと。
その方法は、❶グラスにアブサンを注ぎます ❷ グラスの上にアブサンスプーンをのせ、その上に角砂糖をのせます ❸アブサンファウンテンを使用するか、もしくはカラフェで1滴1滴冷えた水を角砂糖をめがけ、ゆっくりたらして少しずつ加水します。 (アブサンファウンテンとはアブサンドリップのためにつくられた特別な給水の道具。穴の開いたスプーンが、アブサンスプーンと言われる道具。デザインが豊富。) アブサンと水の比率は、1:3~5がおすすめです。 ゆっくりゆっくりと水を注ぐことで、潜在的なハーブのフレーバーやアロマを引き出すことができ、美しいルーシュ(液体が白濁していく様)を鑑賞することができます。
19世紀からアブサンはカクテルの主材料、または副材料として使用されており、当時から歴史的なカクテルブックにもその記載が見られます。例えばサヴォイカクテルブックはバーテンダーのバイブルであり時代を超えて愛されてきた名門ホテル『サボイ』のカクテルレシピ本。伝説の名バーテンダー、ハリー・クラドックがサボイのチーフバーテンダーであった1930年にまとめて以来、世界中で読み続けられ、現代のカクテルの多くの基礎となっているたくさんのレシピが記載されています。このカクテルブックのレシピのうちなんと108つには、アブサンが使用されています。
Tramでは2003年の開店当初から薬草酒のご紹介を続けています。 代表の伊藤が、20代の前半で経営していたTramの前身となる”paradiso”時代に、ウンダーベルグやウニクム、イエガーやフェルネなど苦味薬草酒とパスティスやシャルトリューズなどその他のハーブ酒類が普段あまりバーに行かない同世代の若いお客様たちにカフェや居酒屋さんでは飲めない酒で味の違いも分かりやすい、として人気があったことに由来しています。
2005年頃からはEU各国のアブサン解禁のおかげで少しずつ良質なアブサンが入手できるようになり、 店のアブサンの品揃えはどんどん増え、100種を超えました。 その後スイスやフランスへ赴き、アブサン蒸溜所巡りや品評会、アブサン祭り参加を経て、 日本に輸入されていない良質なアブサンをより広く紹介したい、との思いから輸入卸小売販売もはじめることになります。 アブサンソニックは一番のロングセラーカクテルとなりました。tramだけで毎月6〜70本のアブサンが空になり、アブサンファンが随分と増えてきたことを感じています。アブサンバーを謳う店も日本中に増えてきました。火をつけて遊んだり、トリップの道具にしようとしたりするキワモノとして、もてはやされている面も未だにあるようですが、私たちはこれからも、お酒の持つポジティブな側面を象徴する酒としてアブサンが親しまれ定着していったら嬉しいと思っています。
今から13年も前にもなりますが、アブサンの世界で現代、最も有名な研究者のうちの一人であり、その普及活動家でもあるアラン・モス氏が、彼のブログ “Real Absinthe Blog” に、”サヴォイ・カクテルブック掲載のアブサンカクテル108! ” というタイトルで非常に重要なポストをしていました。
サヴォイ・カクテルブックとは、当時アメリカが禁酒法であったため職を失った伝説のバーテンダー、ハリークラドック氏が、イギリスに帰国してロンドンの名門サヴォイホテル、アメリカンバーのチーフ時代に編纂し、1930年に出版した本です。
彼の遺した唯一のカクテルブックで、今もバーテンダーの古典バイブルとして読み継がれています。
個人的には、2002年秋、Bar Tramの開業準備中に初めて訪れたロンドンで、荷物が重くなりすぎていたのと、散財しすぎていたのとで、散々迷った挙句に街の本屋さんで購入した思い出深い一冊です。
アラン氏は、このカクテルブックの1ページ目に3つもアブサンカクテルが載っているのを見たとき、「この本にあるアブサンを使ったカクテルを抜き出してアブサンカクテルのリストを作ってみよう」と思いついたそうです。
やってみたらこのリストは、見たことのある中で最も長いアブサンカクテルのリストになった!とし、一度に、いや1ヶ月かけても急いで全部試そうとしてはダメですよ、とそのブログに記しています。
その後スイスやフランス、ロンドンなどいろんな地でアブサンイベントに参加した際、アラン氏と会い、アブサンについて直接教えてもらう機会をたくさん得ました。
中でも”ドリップで水割りにするだけがアブサンの飲み方じゃない!アブサンはカクテルの脇役として最も大事な副材料のうちのひとつで、カクテルとしてアブサンを楽しむのはずっと昔からの正当な楽しみ方のひとつなのだ!”ということを習ったことは、我々にはとっても大きかったのです。
というのも当時すでにBar Tramでは Absinthe Sonic(アブサンソニック/ アブサンをトニックとソーダでわり、ライムで酸味をつけたロングドリンク)やAbsinthe Mojito(アブサンモヒート/ラムの代わりにアブサンで作ったフレッシュミントのモヒート)が人気カクテルとして定着していて、実はヨーロッパの正統派アブサンチュール(アブサン愛好家)たちに少々後ろめたい気持ちを持っていたのです。
それがアラン氏の教えにより、我々はやってきたことは間違っていなかったのだ、と自信を得ることができたのです。
そんな経緯もあり、私たちのバーではアブサンファウンテンを使ったアブサン ドリップだけでなく、アブサンをカクテルとして楽しむ飲み方も大きな柱としてご提案しております。
先日久しぶりにアランのポストを見返してみると、リンク切れなどもあり、時の流れを感じました。
そこで13年経った今、あらためて、我がスモールアックス チームで、サヴォイカクテルブックのアブサンカクテルを2020バージョンで再現して、こちらで少しづつご紹介していきたいと思います。
スモールアックス 伊藤拓也
すべてのレシピは、サボイ・カクテル・ブックを元にしています。僕たちなりの解釈を加え2020年バージョンとして再現しています。そのため、容量の変更などをしているところもあります。All recipes are based on the Savoy Cocktail Book. We’ve recreated them as the 2020 version with our own interpretation. So, we’ve made some changes to the volumes.