文学作品の中のアブサン
レイモンドチャンドラーの中のアブサン
荒っぽい暮らしには向かないが、それなりに感じの良い部屋だ。隅の少し仄暗くなったあたりに、大きなダマスク織りの長椅子が置かれていた。ハリウッドの配役担当重役の部屋に、曰くありげに置いてありそうな寝椅子だ。人々があぐらをかいて座り、砂糖のかたまりにアブサンを染ませながら飲み、感極まった声で何かを語り、あるいはただ単に金切り声を上げているような種類の部屋だった。どんなことが起こっても不思議のなさそうな場所だった。まっとうな仕事以外のものならなんでも。
レイモンド・チャンドラー「さよなら、愛しい人」(村上春樹訳)
文学作品の中にお酒が登場することがよくあります。
メタファーとして登場することもありますが、
むずかしいことはおいておいても、作家たちと酒は深いつながりがあるように思います。
では、たとえば、「彼は、一気にビールをのみほした。」という文と、
「彼は、一気にアブサンをのみほした。」という文があるとします。
どうでしょうか?
アブサンは普通、一気に飲みほすようなお酒ではないですから、
何かただ事ではないことが彼の身に起きたのではないのか、と想像します。
それは、お酒が語っています。